微分方程式

偏微分方程式でなぜ変数分離が使えるのか

偏微分方程式・変数分離の直感

偏微分方程式で
なぜ変数分離が使えるのか

「解をいきなり \(u(x,t)=X(x)T(t)\) と置いてよいのか?」という疑問はとても自然です。 実は、変数分離は「すべての解が最初から積の形だ」と決めつける方法ではありません。 積の形をした基本モードを見つけ、それらの和で一般的な解を作る方法です。

\(u(x,t)=X(x)T(t)\)
\(u(x,t)=\sum_{n=1}^{\infty}A_n X_n(x)T_n(t)\)
\(f(x)=\sum_{n=1}^{\infty}A_nX_n(x)\)

まず結論:変数分離は「基本パターン」を探す方法

熱伝導方程式や波動方程式では、未知関数が 位置 \(x\)時間 \(t\) の両方に依存します。

\[ u=u(x,t) \]

ここでいきなり、

\[ u(x,t)=X(x)T(t) \]

と置くと、「そんな都合のよい解だけ見てよいのか?」と思います。 しかし変数分離は、最初からすべての解をこの形に限定しているわけではありません。

大事な見方:
変数分離でまず探しているのは、偏微分方程式が許す 基本的な振る舞い方です。 その基本パターンをたくさん集めて足し合わせることで、より一般的な解を作ります。

例:熱伝導方程式で考える

代表例として、棒の温度分布を表す一次元の熱伝導方程式を考えます。

\[ \frac{\partial u}{\partial t} = \alpha \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \]

ここで、\(u(x,t)\) は位置 \(x\)、時刻 \(t\) における温度、 \(\alpha\) は熱の広がりやすさを表す定数です。

左辺

時間が進むと温度がどう変わるか。

\[ \frac{\partial u}{\partial t} \]

右辺

場所による温度の曲がり具合。

\[ \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \]

熱伝導方程式は、 温度分布の曲がり具合が、その後の時間変化を決める という式です。

なぜ \(u(x,t)=X(x)T(t)\) と置くのか

変数分離では、まず解を次のように仮定します。

\[ u(x,t)=X(x)T(t) \]

これは、位置による形を \(X(x)\)、時間による変化を \(T(t)\) に分けて考えるという意味です。

たとえば棒の温度分布が、空間的にはある山型を保ったまま、 時間とともに全体として小さくなっていくなら、 「形」と「時間変化」を分けて考えられます。

もちろん、現実の温度分布がいつも一つの積だけで書けるとは限りません。 そこで、たくさんの積の形の解を足し合わせます。

\[ u(x,t)=\sum_{n=1}^{\infty}A_nX_n(x)T_n(t) \]

これが変数分離の本当の強さです。

実際に代入してみる

熱伝導方程式に、

\[ u(x,t)=X(x)T(t) \]

を代入します。

時間微分は、\(X(x)\) を定数のように見て、

\[ \frac{\partial u}{\partial t}=X(x)T'(t) \]

空間について2回微分すると、\(T(t)\) を定数のように見て、

\[ \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}=X”(x)T(t) \]

したがって、熱伝導方程式は次のようになります。

\[ X(x)T'(t)=\alpha X”(x)T(t) \]

両辺を \(\alpha X(x)T(t)\) で割ると、

\[ \frac{T'(t)}{\alpha T(t)} = \frac{X”(x)}{X(x)} \]

左辺は \(t\) だけの関数、右辺は \(x\) だけの関数 です。 それなのに、すべての \(x\) と \(t\) で等しい必要があります。

xだけの式とtだけの式が等しいなら、どちらも定数

次の式を見ます。

\[ \frac{T'(t)}{\alpha T(t)} = \frac{X”(x)}{X(x)} \]

左辺は \(t\) を変えると変化するかもしれませんが、\(x\) には依存しません。 右辺は \(x\) を変えると変化するかもしれませんが、\(t\) には依存しません。

それなのに、任意の \(x\) と \(t\) で等しいなら、両辺は定数でなければなりません。

\[ \frac{T'(t)}{\alpha T(t)} = \frac{X”(x)}{X(x)} = -\lambda \]

ここで \(-\lambda\) と置くのは、境界条件を考えたときに三角関数の形が出やすいからです。

時間側

\[ T'(t)=-\alpha\lambda T(t) \]

空間側

\[ X”(x)+\lambda X(x)=0 \]

偏微分方程式が、時間だけの常微分方程式と、空間だけの常微分方程式に分かれました。 これが「変数分離」です。

境界条件から基本モードが決まる

例えば、長さ \(L\) の棒の両端を \(0^\circ\mathrm{C}\) に保つとします。

\[ u(0,t)=0,\quad u(L,t)=0 \]

\(u(x,t)=X(x)T(t)\) なので、空間側には次の条件が必要です。

\[ X(0)=0,\quad X(L)=0 \]

空間側の方程式は、

\[ X”(x)+\lambda X(x)=0 \]

この境界条件を満たす解は、次のような正弦波になります。

\[ X_n(x)=\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) \]

それぞれのモードに対応して、

\[ \lambda_n=\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2 \]

となります。

意味:
棒の中で許される温度分布の基本形は、好き勝手な形ではなく、 境界条件に合う正弦波の集まりになります。

時間方向の解は指数的に減衰する

時間側の方程式は、

\[ T'(t)=-\alpha\lambda T(t) \]

なので、解は指数関数になります。

\[ T(t)=Ce^{-\alpha\lambda t} \]

各モードについて書けば、

\[ T_n(t)= e^{-\alpha\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2t} \]

したがって、1つの基本モードの解は、

\[ u_n(x,t) = A_n\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) e^{-\alpha\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2t} \]

となります。

\(n\) が大きいモードほど、空間的に細かく波打つ成分です。 そして \(n^2\) が指数に入るため、細かい成分ほど速く消えていきます。 熱が時間とともに滑らかになる理由はここにあります。

一般解は基本モードの和になる

1つの積の形の解だけでは、任意の初期温度分布を表せません。 そこで、すべての基本モードを足し合わせます。

\[ u(x,t) = \sum_{n=1}^{\infty} A_n \sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) e^{-\alpha\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2t} \]

これが、両端を0℃に保った棒の熱伝導方程式の代表的な解です。

初期状態が、

\[ u(x,0)=f(x) \]

で与えられるなら、

\[ f(x) = \sum_{n=1}^{\infty} A_n \sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) \]

となるように係数 \(A_n\) を決めます。 これはフーリエ正弦級数です。

\[ A_n = \frac{2}{L} \int_0^L f(x)\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right)\,dx \]

つまり、変数分離で得た基本モードを材料にして、 初期条件に合うように係数を調整しているわけです。

「勝手に積の形にしている」のではない

ここまで見ると、変数分離の意味は次のように整理できます。

  1. まず、積の形をした基本解 \(X(x)T(t)\) を探す。
  2. 境界条件を満たす空間モード \(X_n(x)\) が決まる。
  3. それぞれのモードに対応する時間変化 \(T_n(t)\) が決まる。
  4. 基本モードを足し合わせて、初期条件に合う解を作る。

つまり、変数分離は、

解を1つの積に決めつける方法ではなく、
積の形をした基本部品を見つける方法

です。

なぜフーリエ級数が出てくるのか

熱伝導方程式の境界条件から、空間方向の基本モードは正弦波になりました。

\[ \sin\left(\frac{\pi x}{L}\right),\quad \sin\left(\frac{2\pi x}{L}\right),\quad \sin\left(\frac{3\pi x}{L}\right),\cdots \]

これらの正弦波を足し合わせると、かなり複雑な形の関数も表せます。

\[ f(x) = A_1\sin\left(\frac{\pi x}{L}\right) + A_2\sin\left(\frac{2\pi x}{L}\right) + A_3\sin\left(\frac{3\pi x}{L}\right) +\cdots \]

これがフーリエ級数の考え方です。 つまり、フーリエ級数は変数分離と別々に出てくるものではなく、 境界条件で許された基本モードを足し合わせる過程で自然に現れます。

まとめ

偏微分方程式で変数分離が使える理由は、 解を単純な積の形に無理やり限定しているからではありません。

まず \(u(x,t)=X(x)T(t)\) という形の基本解を探し、 境界条件によって許される空間モードを見つけ、 それぞれの時間変化を求め、 最後にそれらを足し合わせることで一般的な解を作ります。

\[ u(x,t) = \sum_{n=1}^{\infty} A_nX_n(x)T_n(t) \]

この見方を持つと、変数分離は単なる計算テクニックではなく、 「偏微分方程式が持つ基本モードを分解して調べる方法」だと理解できます。

コメント

  1. こんにちは、これはコメントです。
    コメントの承認、編集、削除を始めるにはダッシュボードの「コメント」画面にアクセスしてください。
    コメントのアバターは「Gravatar」から取得されます。

タイトルとURLをコピーしました