スイッチングIC
“NJW4131GM1-A”を使って
昇圧回路を作る
NJW4131GM1-Aは、入力電圧より高い直流電圧を作るための昇圧用スイッチングレギュレータICです。 コイル、ショットキーダイオード、コンデンサ、抵抗を組み合わせることで、昇圧DCDCコンバータを構成できます。
この記事で分かること
- NJW4131GM1-Aが何をしているICなのか
- 昇圧回路が電圧を上げる基本原理
- SW、FB、RT、IN-、ON/OFF端子の役割
- AGNDとPGNDを分ける理由
- 外付け部品をどう見ればよいか
- 回路図を読むときの分解方法
NJW4131GM1-Aとは
NJW4131GM1-Aは、昇圧回路を作るためのスイッチングレギュレータICです。 内部には、発振器、PWM制御回路、誤差増幅器、保護回路、パワーMOSFETなどが入っていると考えると理解しやすいです。
スイッチを高速にON/OFFする
IC内部のMOSFETを高速に切り替えて、コイルへエネルギーをためたり出力側へ送ったりします。
出力電圧を監視する
FB端子で出力電圧を分圧して見ています。目標より低ければON時間を増やし、高ければ減らします。
周波数を決めて制御する
RT端子の外付け抵抗で、内部発振器の動作テンポを決めます。
昇圧回路の基本動作
昇圧回路は、入力電圧を直接持ち上げるのではなく、コイルに一度エネルギーをため、 スイッチOFF時にそのエネルギーを出力側へ押し出すことで高い電圧を作ります。
MOSFET ON時
Vin → コイル → SW → 内部MOSFET → PGND の向きに電流が流れます。 この間、コイル電流が増加し、磁界としてエネルギーが蓄えられます。
MOSFET OFF時
コイルは電流を流し続けようとするため、SW端子の電圧が上昇します。 その結果、ダイオードが導通し、コイルのエネルギーが出力側へ移ります。
昇圧比とデューティ比
理想的な昇圧回路では、出力電圧と入力電圧の関係はデューティ比 \(D\) を使って次のように表せます。
ここで \(D\) は、1周期のうちMOSFETがONしている時間の割合です。 例えば \(D=0.5\) なら、理想的には入力電圧の約2倍になります。
\(D=0.25\)
\[ V_{\mathrm{out}} = \frac{V_{\mathrm{in}}}{0.75} \approx 1.33V_{\mathrm{in}} \]
\(D=0.50\)
\[ V_{\mathrm{out}} = \frac{V_{\mathrm{in}}}{0.50} = 2V_{\mathrm{in}} \]
\(D=0.75\)
\[ V_{\mathrm{out}} = \frac{V_{\mathrm{in}}}{0.25} = 4V_{\mathrm{in}} \]
ピン配置と各端子の役割
8本の端子を「大電流系」「制御系」「検出系」「GND系」に分けると、回路図がかなり読みやすくなります。
1. SW
コイルと内部MOSFETの接続点。高速で大きく電圧が振れるため、ノイズ源になりやすい端子です。
2. ON/OFF
ICを動作・停止させる端子です。マイコンなどで制御できます。
3. V+
IC自身の電源端子です。入力電圧側につながります。
4. RT
外付け抵抗で内部発振器の周波数を決める端子です。
5. IN-
誤差増幅器や位相補償に関係する端子です。制御が不安定にならないように使います。
6. FB
出力電圧を分圧して戻す端子です。ICが出力電圧を判断する目です。
7. AGND
制御回路の基準GNDです。ノイズを乗せたくない静かなGNDです。
8. PGND
内部MOSFETの大電流が戻るGNDです。パルス電流が流れます。
RT端子は抵抗1本なのになぜ周波数が決まるのか
RT端子につながる抵抗そのものが交流を発生しているわけではありません。 IC内部に発振器があり、RT抵抗はその発振器の充放電電流や基準タイミングを決める役割を持ちます。
RT抵抗は「発振器のテンポ」を決める
RT端子の抵抗値によって、内部の発振器がどれくらいの速さで周期を作るかが決まります。 その周期を基準に、MOSFETのON/OFFが行われます。
抵抗が直接交流を作るわけではない
抵抗1本だけを見ると不思議ですが、実際にはIC内部の発振回路が動いています。 RT抵抗は、その内部回路に流れる電流や充放電速度を決める部品です。
AGNDとPGNDはなぜ分かれているのか
AGNDは小信号制御回路の基準、PGNDは大電流スイッチング電流の戻り道です。 最終的には基板上のGNDとしてつながりますが、つなぎ方が重要です。
なぜ分けるのか
PGNDにはMOSFETのパルス電流が流れるため、配線抵抗や配線インダクタンスによって電圧が揺れます。 その揺れがFBやRTの基準に入ると、出力電圧の制御が不安定になります。
完全に別々ではない
AGNDとPGNDは、最終的には同じGNDにつながります。 ただし、大電流が流れる経路と小信号の基準点を不用意に混ぜないことが重要です。
FB端子は出力電圧を見る「目」
昇圧回路では、出力電圧を抵抗分圧してFB端子に戻します。 ICはFB電圧を内部基準電圧と比較し、MOSFETのON時間を調整します。
抵抗分圧で出力電圧を小さくして見る
出力電圧をそのままIC内部に入れるのではなく、R1とR2で分圧してFB端子へ戻します。 FB端子の電圧が基準値に近づくようにICが制御します。
FB電圧の式
目標出力電圧を決めたい場合は、ICのFB基準電圧に合わせてR1とR2の比を選びます。
外付け部品の役割
昇圧回路はICだけでは動きません。コイル、ダイオード、コンデンサ、抵抗がそれぞれ役割を持っています。
| 部品 | 役割 | 選定で見る点 |
|---|---|---|
| インダクタ \(L\) | ON時にエネルギーをため、OFF時に出力側へ送る | インダクタンス、飽和電流、直流抵抗、発熱 |
| ショットキーダイオード | MOSFET OFF時にコイル電流を出力側へ流す | 逆耐圧、平均電流、順方向電圧、発熱 |
| 入力コンデンサ \(C_{\mathrm{in}}\) | 入力電源の電圧揺れを抑える | 容量、耐圧、リップル電流、低ESR |
| 出力コンデンサ \(C_{\mathrm{out}}\) | 出力電圧を平滑化する | 容量、耐圧、ESR、リップル電圧 |
| FB抵抗 | 出力電圧を分圧してFB端子に戻す | 抵抗比、精度、ノイズの乗りにくさ |
| RT抵抗 | 内部発振器の周波数を設定する | データシートの推奨範囲、抵抗精度 |
配線・レイアウトの注意点
スイッチング電源は、回路図どおりに接続すれば必ず綺麗に動くとは限りません。 大電流ループ、SWノード、GNDの取り方がかなり重要です。
大電流ループを短くする
Vin、コイル、SW、PGND、入力コンデンサ周辺のループはできるだけ短く太くします。
SWノードを広げすぎない
SW端子周辺は高速で電圧が振れるため、面積を広げすぎるとノイズを放射しやすくなります。
FB配線をSWから離す
FBは小さな電圧を見ているため、SWノードやコイルから離して配線した方が安定します。
よくある疑問
Q. 昇圧すると電流は増えるのか?
基本的には、電圧を上げると取り出せる電流は小さくなります。 理想的には入力電力と出力電力が等しいので、 \[ V_{\mathrm{in}}I_{\mathrm{in}} \approx V_{\mathrm{out}}I_{\mathrm{out}} \] と考えます。実際には損失があるため、出力側の電力は入力側より小さくなります。
Q. なぜわざわざ昇圧するのか?
LED駆動、液晶用電源、センサ用電源、バッテリー機器での高電圧生成など、 入力電源より高い電圧が必要な場面があるからです。
Q. RT端子に抵抗だけで本当に発振するのか?
抵抗が発振しているのではなく、IC内部の発振器が動いています。 RT抵抗はその発振器の周波数を決める外部設定部品です。
Q. AGNDとPGNDは最後につなぐのか?
はい、基準としては同じGNDに属します。 ただし、大電流が流れるPGND経路の電圧揺れをAGND側へ持ち込まないように、合流点や配線経路を工夫します。
まとめ
NJW4131GM1-Aを使った昇圧回路は、IC内部のMOSFETを高速にON/OFFし、 コイルにエネルギーをためたり出力側へ送ったりすることで入力より高い電圧を作ります。
- SW端子はコイルと内部MOSFETの接続点で、最もノイズが大きい
- FB端子は出力電圧を見るための端子
- RT端子は内部発振器の周波数を決める端子
- AGNDは小信号基準、PGNDは大電流の戻り道
- 昇圧すると電圧は上がるが、取り出せる電流や効率には限界がある
回路図を読むときは、まず「エネルギーをためる経路」「出力へ送る経路」「出力を検出する経路」 「GNDへ戻る経路」に分けると、複雑に見える昇圧回路もかなり理解しやすくなります。

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