数学

回転(rot)のイメージを具体例で理解する

ベクトル解析・回転・カール・マクスウェル方程式の準備

回転・カールのイメージを具体例で理解する

回転・カール \(\nabla\times\mathbf{F}\) は、ベクトル場がその場所の周りで どれくらい「ぐるっと回そうとしているか」を表す量です。 マクスウェル方程式では \(\nabla\times\mathbf{E}\) や \(\nabla\times\mathbf{B}\) として出てきます。 この記事では、矢印の図と簡単な計算を使って、回転の直感をつかみます。

BASIC

回転・カールとは何を測っているのか

ベクトル場 \(\mathbf{F}\) とは、空間の各点に矢印が置かれているものです。 たとえば電場 \(\mathbf{E}\)、磁場 \(\mathbf{B}\)、流体の速度場、風の流れなどがベクトル場です。

回転・カールは、その点の近くに小さな水車を置いたとき、 その水車が回されるかを表す量です。

回転が正:決めた向きに対して、反時計回りに回そうとする。

回転が負:決めた向きに対して、時計回りに回そうとする。

回転が0:水車を回そうとする偏りがない。

小さな水車が回るかを見る
図1:回転は「小さな水車が回るか」で考える
FORMULA

計算式としての回転・カール

3次元のベクトル場を \[ \mathbf{F}=(F_x,F_y,F_z) \] と書くと、回転・カールは次のように定義されます。

\[ \nabla\times\mathbf{F} = \left( \frac{\partial F_z}{\partial y}-\frac{\partial F_y}{\partial z}, \frac{\partial F_x}{\partial z}-\frac{\partial F_z}{\partial x}, \frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y} \right) \]

2次元の図で考えるときは、主に \(z\) 方向成分だけを見れば十分です。 \(\mathbf{F}=(F_x,F_y)\) なら、

\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial F_y}{\partial x} – \frac{\partial F_x}{\partial y} \]

この値が正なら反時計回り、負なら時計回りの回転を作ると考えます。

EXAMPLES

具体例で回転・カールのイメージをつかむ

矢印が「曲がっているか」だけではなく、小さな水車を置いたとき左右・上下で受ける押し方に差があるかに注目します。

例1 回転 0

一様な場:矢印はあるが、水車は回らない

水車全体が同じ向きに押されるだけ
図2:一様な場では、水車は流されても回らない

右向きに一定の場を考えます。

\[ \mathbf{F}=(a,0) \]

2次元では、

\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial F_y}{\partial x} – \frac{\partial F_x}{\partial y} = \frac{\partial 0}{\partial x} – \frac{\partial a}{\partial y} = 0 \]

矢印はありますが、場所によって押し方に差がないため、水車は回りません。 ただ全体が右へ流されるだけです。

例2 回転 正

反時計回りの渦:水車が回される

反時計回りに回す性質がある
図3:反時計回りの渦状の場

原点の周りを反時計回りに回る場を考えます。

\[ \mathbf{F}=(-y,x) \]
\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial x}{\partial x} – \frac{\partial (-y)}{\partial y} = 1-(-1) = 2 \]

回転は正です。 これは、小さな水車を置くと反時計回りに回されることを表します。

例3 回転 負

時計回りの渦:符号が反対になる

時計回りに回す性質がある
図4:時計回りの渦状の場

今度は時計回りに回る場を考えます。

\[ \mathbf{F}=(y,-x) \]
\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial (-x)}{\partial x} – \frac{\partial y}{\partial y} = -1-1 = -2 \]

回転は負です。 反時計回りを正と決めると、時計回りは負になります。

例4 回転あり

せん断流:まっすぐ流れていても、水車は回る

上の流れが速く、下の流れが遅い
図5:まっすぐな流れでも、速さの差で水車が回る

\(x\) 方向にだけ流れているが、上に行くほど流れが速い場を考えます。

\[ \mathbf{F}=(ay,0) \]
\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial 0}{\partial x} – \frac{\partial (ay)}{\partial y} = -a \]

矢印は全部右向きで、見た目は渦ではありません。 しかし上側の羽根が強く押され、下側の羽根が弱く押されるため、水車は回ります。

回転は「矢印が円を描いているか」だけではありません。 場所による速さの差でも回転が生まれます。
例5 回転 0

中心から広がる場:発散はあるが、回転はない

外へ広がるが、ぐるっと回してはいない
図6:発散は正だが、回転は0の例

原点から外向きに広がる場を考えます。

\[ \mathbf{F}=(ax,ay) \]
\[ (\nabla\times\mathbf{F})_z = \frac{\partial (ay)}{\partial x} – \frac{\partial (ax)}{\partial y} = 0-0 = 0 \]

この場は外へ湧き出しているので発散は正です。 しかし水車を回すような偏りはないので、回転は0です。

例6 電流の周りに回転する磁場

導線まわりの磁場:電流が磁場の渦を作る

電流 \(I\) がこちら向き 電流の周りに磁場が円を描く
図7:導線を流れる電流の周りには磁場が回り込む

アンペール・マクスウェルの法則は、磁場の回転を表します。

\[ \nabla\times\mathbf{B} = \mu_0\mathbf{j} + \mu_0\varepsilon_0 \frac{\partial\mathbf{E}}{\partial t} \]

静かな直流電流だけを考えると、時間変化する電場の項は無視できて、

\[ \nabla\times\mathbf{B} \approx \mu_0\mathbf{j} \]

つまり、電流密度 \(\mathbf{j}\) がある場所では、磁場 \(\mathbf{B}\) に回り込む性質が生まれます。 これが、導線の周りに磁場が円を描く理由です。

例7 変化する磁場が電場の渦を作る

ファラデーの法則:磁場が変化すると、渦状の電場ができる

× × × × × × 奥向きの磁場が変化 周囲に渦状の電場が生じる
図8:磁束が変化すると、周囲に回り込む電場ができる

ファラデーの電磁誘導の法則は、電場の回転を表します。

\[ \nabla\times\mathbf{E} = – \frac{\partial\mathbf{B}}{\partial t} \]

これは、 磁場が時間的に変化すると、その周りに渦状の電場ができる という意味です。

マイナス符号は、レンツの法則に対応します。 つまり、生じる電場は、磁場の変化を打ち消す向きの電流を作ろうとします。

COMPARISON

発散と回転の違い

見る量 記号 直感 典型例
発散 \(\nabla\cdot\mathbf{F}\) その場所から湧き出しているか、吸い込まれているか 点電荷から出る電場、排水口へ向かう流れ
回転・カール \(\nabla\times\mathbf{F}\) その場所の周りで水車を回そうとしているか 渦、せん断流、導線まわりの磁場、電磁誘導の電場

重要: 外へ広がる場は発散があっても回転はないことがあります。 逆に、ぐるぐる回る場は回転があっても発散はないことがあります。

MAXWELL

マクスウェル方程式では回転はどう出てくるか

マクスウェル方程式では、回転は主に次の2つの式に出てきます。

\[ \nabla\times\mathbf{E} = – \frac{\partial\mathbf{B}}{\partial t} \]

これは、変化する磁場が渦状の電場を作るという式です。 コイルに磁石を近づけると電流が流れる電磁誘導は、この式と関係しています。

\[ \nabla\times\mathbf{B} = \mu_0\mathbf{j} + \mu_0\varepsilon_0 \frac{\partial\mathbf{E}}{\partial t} \]

これは、電流と変化する電場が磁場の回り込みを作るという式です。 導線の周りに磁場ができることや、電磁波が空間を伝わることにつながります。

SUMMARY TABLE

回転のパターン別まとめ

場の形 回転 直感
一様な場 \(\mathbf{F}=(a,0)\) \(0\) 同じ向きに押されるだけで、水車は回らない。
反時計回りの渦 \(\mathbf{F}=(-y,x)\) \(+2\) 小さな水車を反時計回りに回す。
時計回りの渦 \(\mathbf{F}=(y,-x)\) \(-2\) 小さな水車を時計回りに回す。
せん断流 \(\mathbf{F}=(ay,0)\) \(-a\) 矢印は直線でも、速さの差で水車が回る。
中心から広がる場 \(\mathbf{F}=(ax,ay)\) \(0\) 湧き出しはあるが、水車を回さない。
導線まわりの磁場 \(\nabla\times\mathbf{B}\) 電流密度に関係 電流が磁場の回り込みを作る。
電磁誘導の電場 \(\nabla\times\mathbf{E}\) 磁場の時間変化に関係 変化する磁場が渦状の電場を作る。

まとめ:回転は「小さな水車が回るか」を見る

  • 回転・カール \(\nabla\times\mathbf{F}\) は、その場所でベクトル場がどれくらい渦を作るかを表す。
  • 一様な場は、矢印があっても回転は0。
  • 反時計回りの渦は、2次元では正の回転として表せる。
  • 時計回りの渦は、符号が負になる。
  • せん断流のように、矢印が直線的でも速さの差があれば回転が出る。
  • 中心から外へ広がる場は、発散はあっても回転は0。
  • マクスウェル方程式では、\(\nabla\times\mathbf{E}\) が電磁誘導、\(\nabla\times\mathbf{B}\) が電流や変化する電場による磁場の回り込みを表す。

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