この記事では、水晶振動子がなくても発振が起こる理由を、LC共振・正帰還・トランジスタの増幅・配線のアンテナ化までつなげて図解します。
まず結論:水晶がなくても発振は起こる
水晶振動子は「発振そのものを作る魔法の部品」ではありません。水晶の主な役割は、発振回路の中で非常に鋭い周波数選択性を持つ共振器として働くことです。
水晶がなくても、R・L・C・トランジスタ・オペアンプ・CMOSインバータなどを使えば発振回路は作れます。代表例はLC発振回路、RC発振回路、リング発振器などです。
ただし、R・L・C・トランジスタが入っているだけで必ず発振するわけではありません。微小なノイズが大きな発振へ成長するには、以下の条件が必要です。
周波数を決める部分
LC、RC、水晶、遅延回路など。どの周波数が成長するかを決める。
増幅する部分
トランジスタなどが電源からエネルギーを取り出し、振動へ補給する。
正帰還
出力の一部が入力をさらに強める向きで戻る必要がある。
発振とは、回路内部の小さな揺れが、正帰還と増幅によって何度も強められ、一定の周期運動になる現象です。
水晶振動子はなぜ等価回路で表せるのか
水晶振動子は、電圧をかけると微小に変形し、逆に変形すると電圧を発生する性質を持ちます。これを圧電効果といいます。
電気的に見ると、水晶の機械振動は、まるでL・C・Rの共振回路のように振る舞います。そのため、よく次のような等価回路で表されます。
水晶を等価回路に置き換えても発振するのか
理想的に同じR₁・L₁・C₁・C₀を作れるなら、数学的には同じように発振条件を作れます。回路から見れば、水晶そのものか等価回路かは区別できないからです。
水晶の等価回路では、C₁が非常に小さく、L₁が非常に大きくなることがあります。さらに水晶はQが非常に高いため、普通のコイルとコンデンサで同じ性能を作るのはかなり困難です。
複素抵抗で見る水晶とLC共振
水晶の運動枝を、直列のR₁・L₁・C₁として考えます。その複素インピーダンスは次のようになります。
ここで虚数部分が0になると、直列共振です。
\[ \omega_s=\frac{1}{\sqrt{L_1C_1}},\qquad f_s=\frac{1}{2\pi\sqrt{L_1C_1}} \]
この周波数では、コイルとコンデンサのリアクタンスが打ち消し合い、運動枝はほぼR₁だけに見えます。
直列共振付近では、水晶は特定の周波数だけを非常に通しやすい部品のように見えます。
等価回路全体のインピーダンス
水晶全体では、運動枝 \(Z_m\) と電極容量 \(C_0\) が並列になっています。\(C_0\) のインピーダンスを
とすると、水晶全体の端子インピーダンスは、アドミタンスを使わずに書けば次の形です。
並列共振付近では、全体のインピーダンスが非常に大きく見えます。並列共振の角周波数は概略的に次のように表せます。
共振と発振は違う
LC回路はエネルギーを行き来させます。コンデンサには電気エネルギー、コイルには磁気エネルギーがたまります。
コンデンサ
電圧としてエネルギーをためる。電界にエネルギーが蓄えられる。
コイル
電流としてエネルギーをためる。磁界にエネルギーが蓄えられる。
理想的なLC回路なら、エネルギーがCとLの間を行き来し続けます。しかし現実には必ず抵抗や損失があります。
この式は、現実のRLC回路では振動が減衰することを表します。
発振:損失を補うエネルギー供給があり、振動が持続・成長する現象。
トランジスタは何をしているのか
トランジスタは、小さな入力信号で大きな電流を制御します。BJTなら小信号的には次のように表せます。
MOSFETなら、次のように考えられます。
共振回路の振動を検出し、電源からエネルギーを取り出して、ちょうどよいタイミングで戻します。
正帰還とバークハウゼン条件
増幅段の利得を \(A\)、帰還率を \(\beta\) とすると、1周した信号は \(A\beta\) 倍されます。
\[ \angle A\beta=0^\circ \quad \text{なら同じ向きで戻る} \]
負性抵抗で見る発振
複素抵抗的な見方では、トランジスタ回路は共振回路に対して「負の抵抗」を与えているように見えます。
本当にエネルギーが無から生まれるわけではありません。トランジスタは、電源の直流エネルギーを交流の振動エネルギーへ変換しているだけです。
なぜ普通のトランジスタ回路は全部発振しないのか
R・L・C・トランジスタがあれば何でも発振しそうに見えます。しかし実際には、多くの回路は発振しません。
| 条件 | 発振するか | 理由 |
|---|---|---|
| Rだけ | しない | エネルギーを行き来させる要素がない。 |
| 理想LC | 理想的には続く | 損失がゼロなら振動が続く。ただし現実には損失がある。 |
| 現実のRLC | 減衰する | 抵抗や損失でエネルギーが失われる。 |
| RLC + 増幅 + 正帰還 | 条件次第で発振 | 損失を上回るエネルギーが正しい位相で補給される。 |
| 普通の増幅回路 | 基本的には発振しない | 発振しないように負帰還、位相余裕、ゲイン余裕を持たせて設計する。 |
戻ってきた信号が入力を打ち消す負帰還になっている。
位相が合わない、またはループ利得が足りない。
ただし高周波回路では、意図しない寄生容量・配線インダクタンス・電源ラインの揺れなどで、偶然に正帰還ができてしまうことがあります。
発振したら電波は出るのか
発振すると、回路上の特定の点の電圧や電流が周期的に変化します。正弦波発振なら、あるノードの電圧は次のように表せます。
アンテナをつながなくても、回路の配線、基板パターン、電源線、外部ケーブルは、高周波では小さなアンテナのように振る舞うことがあります。
配線が1/4波長・1/2波長に近いと危険
行き止まりの配線にも高周波電流は流れる
直流では、行き止まりの配線には電流は流れません。しかし高周波では、空間や周囲のGNDとの間にある微小な静電容量を通じて、交流電流が流れます。
高周波の感覚:浮遊容量を通じて、空間・GND・筐体へ交流的な戻り道ができる。
正弦波と矩形波では電波の漏れ方が違う
LC発振や水晶発振では、比較的正弦波に近い波形になります。一方、デジタル回路やリング発振では、矩形波に近い波形になることがあります。
主にその周波数だけの成分が中心。例:16 MHzの正弦波なら、主成分は16 MHz。
基本波に加えて、多数の高調波を含む。例:16 MHzの矩形波には48 MHz、80 MHz、112 MHzなども含まれる。
高調波は周波数が高いため、波長が短くなります。すると、基板上の配線や外部ケーブルが波長に対して相対的に長くなり、放射しやすくなります。
基本周波数が低くても、立ち上がりの鋭い矩形波は高周波成分を多く含むため、不要輻射の原因になりやすいです。
不要な発振・電波漏れを抑える考え方
発振させたい回路では正帰還を作りますが、発振させたくない回路では逆に正帰還を避けます。また、発振した信号が長い線に乗らないようにすることも重要です。
発振ノードの配線を短くする
水晶、LC、クロックなどの高周波ノードはできるだけ短く、コンパクトに配置します。
戻り電流の経路を近くに置く
信号線とGNDの戻り道が離れるとループ面積が大きくなり、放射しやすくなります。
外部ケーブルへ高周波を乗せない
USB、電源線、センサー線などはアンテナになりやすいため、フィルタやフェライト、適切なGND設計が重要です。
必要以上に鋭いエッジを避ける
高速な立ち上がり・立ち下がりは高調波を増やします。必要に応じて直列抵抗などでエッジを穏やかにします。
電源デカップリングを入れる
発振や高速スイッチングの電流が電源ラインに回り込むと、他の配線から放射されやすくなります。
高周波電流のループを小さくする、長い線に乗せない、戻り道を近くする。この3つが不要輻射対策の大きな柱です。
全体まとめ
| テーマ | 結論 |
|---|---|
| 水晶振動子 | 発振を作る魔法の部品ではなく、非常に鋭い周波数選択性を持つ共振器。 |
| 等価回路 | 理想的に同じR₁・L₁・C₁・C₀を作れば、数学的には同じように扱える。 |
| LC・RLC回路 | 共振はするが、現実には損失で減衰する。 |
| トランジスタ | 電源からエネルギーを取り出し、共振回路へタイミングよく補給する。 |
| 発振条件 | \(|A\beta|>1\) かつ位相が入力を強める向きで戻ること。 |
| 負性抵抗 | 能動回路が損失抵抗を打ち消すように見える考え方。 |
| 配線のアンテナ化 | 高周波電流が長い配線やケーブルに乗ると、電波として放射されやすい。 |
| 行き止まり配線 | 直流では電流ゼロでも、高周波では浮遊容量を通じて交流電流が流れ得る。 |
発振とは、回路の中の小さなノイズや揺れが、正帰還と増幅によって成長し、一定の周期運動になる現象です。水晶はその周波数を非常に正確に決める部品であり、トランジスタは電源からエネルギーを補給する部品です。そして発振した信号が長い配線やケーブルに乗ると、その線がアンテナのように振る舞い、不要な電波漏れの原因になります。

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